手術室で知っておきたい ラテックスアレルギーと悪性高熱症|対策と初期対応の基本

こんにちは、あるいはこんばんは。一匹兎(@pepeopecn)と申します。

元手術室の看護師です。現在は大学で教員をしています。

 

今回のテーマは『ラテックスアレルギーと悪性高熱症』についてです。

こちらの2つはアナフィラキシーショックとも大きく関係しています。

アナフィラキシーショックについては別記事でまとめております。

こちらも参考にしていただければ幸いです。

ラテックスアレルギーも悪性高熱症もかなりマニアックな症状になりますが、やはり知っていなければいぜと言うときに対処することが難しくなります。

その時にスムーズに動くためにも、ぜひ基本的な部分を抑えていきましょう。

 

ラテックスアレルギーとは。

『医療用品に含まれる天然ゴム製品に接触することで起こるアレルギー、アナフィラキシーショック、喘息発作などの即時型アレルギー反応』と言われています。

 

☆高リスクグループ☆

・医療従事者、特に手指にアトピー性皮膚炎、接触性皮膚炎がある場合

・繰り返しラテックス製品による医療処置を受けている患者(二分脊椎症など)

・食物アレルギー患者、特にラテックスに含まれる抗原と交差性をもつバナナ、アボカド、クリ、キウイなどにアレルギーがある場合

※その他モモ、イチジクなど

・天然ゴム製造業従事者

など

 

症状

・掻痒感 ・蕁麻疹 ・鼻、眼、喉の症状(痒み、イガイガする) ・喘息発作 ・アナフィラキシーショック など

 

天然ゴムの含む製品。

医療品

・尿道カテーテル ・手袋 ・ネラトンカテーテル ・絆創膏 ・駆血帯 ・加圧バック ・血圧計の送気球部分 ・超音波プローブ用プローブカバー ・レーザー気管チューブ ・エスマルヒ   など

 

日用品

・消しゴム ・輪ゴム ・風船 ・哺乳瓶の乳首 ・おしゃぶり ・靴底 ・スポーツ用品 ・家庭用手袋 ・ゴムボール  など

 

ラテックスフルーツ症候群。

廣瀬宗孝:いつ起こる?なぜ起こる?どう対応する?術中・術後合併症50,株式会社メディカ出版より

ラテックスアレルギー患者の約半数にバナナ、アボカドなどのトロピカルフルーツによる食物アレルギーがみられる。

※ラテックスとの交叉反応性によって生じる。

 

ラテックスアレルギー果物を食べたときに、アレルギー症状がみられる。

※口腔咽頭症状に限局することが多いがアナフィラキシーショックに至ることもある。

 

LFS:ラテックスフルーツ症候群

引用:松永佳世子:ラテックスアレルギーのすべて安全対策ガイドライン準拠、秀潤社、2007.

 

引用:松永佳世子:ラテックスアレルギーのすべて安全対策ガイドライン準拠、秀潤社、2007.

 

http://www.yamauchi-iin.com/kaisetu/0926.htm

 

手術室でのラテックスアレルギーへの対策。

ラテックスアレルギーへの対策を知っておくことが、いざ実践するときに慌てなくて済みます。

看護師の動きが特に手術室ではかなり重要でもありますので、1つでも多くの対策方法を知っておいて、発揮できると良いと思います。

①事前に術前訪問の際など、ラテックスアレルギーについて十分な問診を行う。

②手術はその日の1例目に予定する。

→朝一番は手袋パウダー由来の飛沫ラテックス抗原が一番少ない。

③麻酔科医・術者・看護師は非ラテックスの手袋(クロロプレンゴム製、プラスチック製など)を使用する。

④麻酔バッグや呼吸回路は非ラテックス製を使用、ゴム製ヘッドバンドは使用しない。バルーン、ドレーンはシリコン製を使用する。

⑤ゴム製駆血帯を使用しない。

⑥輸液回路はゴムを使用していないものにする。

⑦非ラテックス製品のないものはビニール袋で巻くなどして、直接患者に触れない様にする。

※周術期管理チームテキスト第2版より一部抜粋

 

自身の所属する手術室独自のマニュアルや、術前訪問時に使用するパンフレットを作成して活用することで事前に予備軍を見つけることも可能と考えます。

対策については様々あるかと思いますが、その手術室によってできる内容を吟味して準備しておくことも必要と感じます。

 

悪性高熱症とは。

『常染色体優性の遺伝性筋肉疾患』と言われています。

リアノジン受容体遺伝子の異常が原因と言われており、発症率は1万~22万人に1人で、若い男性を中心に発症しています。

(統計も1万~22万とかなり幅が広くなっており、結局の所あまり頻度としては多くないのかなといった印象です。報告された地域的な偏りの可能性も含めて日本全体を反映しているとは言い難いです。)

・誘発薬の暴露で発症する致死的な麻酔合併症

・誘発薬として全ての揮発性吸入薬と脱分極性筋弛緩薬が知られている

・悪性高熱症の素因者でなければ本症を発症することはない

悪性高熱症の本態は骨格筋の異常な代謝亢進状態である。

揮発性吸入麻酔薬は筋小胞体からのカルシウムによるカルシウム放出機構を促進させる。

これにより細胞内Ca2+濃度が上昇して筋収縮を起こし、代謝を亢進させると考えられている。

骨格筋細胞内でCaはATPを使用して筋収縮をおこし、また Caは骨格筋細胞内のグリコーゲンの分解や解糖系を調節する作用もある。

揮発性吸入麻酔薬や脱分極性筋弛緩薬が悪性高熱症素因者に投与されると、骨格筋細胞内のCaの調節機構が破綻しCaが上昇し、筋収縮、グリコーゲンの分解、筋小胞体へのCaの取り込みの増加が生じて、ATPが消費されADPが増加する。

増加したADPは解糖系とミトコンドリアでのピルビン酸の酸化を促進させる。

これらの反応によりO2とATPとグリコーゲンが枯渇し、CO2と乳酸と熱が産出される。

進行すると骨格筋細胞膜が壊れてカリウムやCKやミオグロビンが血中へ放出される。

 

正常な筋肉の収縮と弛緩。

悪性高熱症を知る上でまずは正常の動きを理解しましょう。

ちょっと難しい話になりますが確認していきましょう。

 

・骨格筋において運動神経が興奮

・筋細胞膜は脱分極をする

・T管に伝わる

・ジヒドロピン受容体(DHP受容体)に感知される

・隣のリアノジン受容体に伝わり筋小胞体からカルシウム(Ca2+)イオンを放出させる

・放出したCa2+イオンはトロポニンCと結合し、ATPを消費してアクチンとミオシンの分子間距離を短縮させる

これが筋肉の収縮です。

・細胞内に放出されたCa2+イオンは筋小胞体に存在するCa2+イオン取り込みポンプにより筋小胞体内に取り込まれ、細胞内のCa2+イオンの濃度が低下する

・トロポニンCと結合したCa2+イオンは解離し、アクチンとミオシンの分子間距離は長くなり、筋肉が弛緩する

これが筋肉の弛緩です。

 

リアノジン受容体遺伝子の異常。

正常を理解した上で今度は異常を確認してみましょう。

こちらを理解する事で悪性高熱症のメカニズムを知ることができます。

 

・薬剤やストレスなどの要因が加わる

・細胞内Ca濃度が異常に上昇して、細胞内代謝が異常亢進する

Ca誘発性Ca放出機構(CICR:calcium-induced calcium release)

※生理的に起こっているCa放出とは異なる

・細胞内Ca濃度がある限度を超えて上昇すると、筋小胞体からのCa2+イオン放出にポジティブフィードバックがかかり、さらにCa2+イオンの放出が増強される

・細胞内にCa2+イオンが多量に放出され、骨格筋が異常に収縮する

 

悪性高熱症の臨床症状。

①体温40℃以上

②0.5℃/15分,または2℃/1時間以上の体温上昇

③筋硬直:全身または身体の一部

④原因不明の頻脈、不整脈の頻発

⑤チアノーゼ(低酸素血症)

⑥EtCO2濃度またはPaCO2の上昇

⑦代謝性アシドーシス

⑧ミオグロビン尿(ポートワイン色)

⑨トランスアミナーゼ(GOT、GPT)、CPK、LDHなどの上昇

など

悪性高熱症の素因がある患者。

・悪性高熱症の既往や家族歴がある

・先天性筋疾患

(セントラルコア病、筋ジストロフィー、先天性筋緊張症、先天性関節強直症など)

・骨格筋関連病態

(運動誘発性クレアチンキナーゼ血症、運動誘発性ミオグロビン尿症

特発性高クレアチンキナーゼ血症、側弯症、熱中症、斜視、眼瞼下垂など)

・肺嚢胞、自然気胸、反復性不明熱などの既往がある

 

悪性高熱症を誘発する薬物。

・揮発性吸入麻酔薬

・ハロセン ・メトキシフルレン(ペントレン) ・エンフルレン(エトレン) ・イソフルレン(フォーレン) ・セボフルレン(セボフレン)  など。

 

・脱分極性筋弛緩薬

スキサメトニウム(サクシニールコリン,サクシン など。)

※比較的安心な薬物

・麻酔薬

・酸化窒素(笑気ガス) ・バルビツレート類 ・プロポフォール   など

・麻薬

・フェンタニル(フェンタネスト) ・レミフェンタニル(アルチバ) ・モルヒネ   など

・局所麻酔薬

・リドカイン(キシロカイン) ・メピバカイン(カルボカイン) ・ブピバカイン(マーカイン) ・ポプスカイン(レボブピバカイン) ・塩酸プロカイン  など

※アミド型局所麻酔薬は臨床使用濃度では安全と言われている

・ベンゾジアゼピン系

・セルシン ・ミダゾラム など

 

悪性高熱症の発症率-文献より―DPCデータベースを用いた日本全体での発症率・使用薬剤との関連性の調査

対象:2006~2008年の全身麻酔下に手術を受けた患者1,238,171症例

性別: 男性:48% 女性:52%

年齢:18%が29歳以下

使用薬剤:セボフルラン75% イソフルラン2.7% ベクロニウム63% ロクロニウム20% スキサメトニウム1.6% プロポフォール77%

※2008年当時の日本の中核病院では,ガス麻酔(ほとんどセボフルラン)が主流で,TIVAは3割弱ぐらいと比較的少数派だった。

 

☆結果☆

・悪性高熱症の発生は17例(1例/73,000例)

・術前から悪性高熱症と診断されていた、あるいはリスクがあるような合併症を伴っていた症例はない。

・術後死亡症例は1例のみ。(セボフルラン,ベクロニウム使用)

・使用薬剤はセボフルラン14例、ベクロニウム10例、ロクロニウム6例、プロポフォール12例で、イソフルラン等の揮発性麻酔薬や、スキサメトニウムでは発症例はなかった。

・セボフルランを使用していない症例は3例あり、いずれもTIVAと思われる。しかもその内の1例は筋弛緩薬も使用していない。

 

・薬剤による100万人当たりの発症頻度

セボフルラン  15.0人
ベクロニウム  12.8人
ロクロニウム  24.3人
プロポフォール 12.6人

⇒優位な薬剤は無い  ※どの薬剤も可能性がある

 

・唯一差があるのは男女差
男性は100万人当たり21.8人の発症頻度のところ、女性は6.2人だった。(P=0.029 )

※男性の方が発症しやすい

30歳以上の11.8人に対して,29歳以下は22.5人と多いが有意差はない。

 

悪性高熱症の死亡率。

予後を左右する因子

・最高体温

・体温上昇速度

・心室性不整脈

・pH

・血清カリウム値  など。

最高体温が高いほど死亡率も高く、死亡率は最高体温が40℃未満では2.6%だが41℃以上では53%まで上昇する。

広島大学麻酔蘇生学教室2013より

 

悪性高熱症の対策。

・既往歴、麻酔歴、悪性高熱症関連疾患の確認

・クレアチンキナーゼ(CK)の上昇や筋疾患がないか

※揮発性麻酔薬や脱分極性筋弛緩薬の使用を避ける

・術前の診察と情報収集

※日本麻酔科学会の「悪性高熱症患者の管理に関するガイドライン」があります

 

起こったらどうする?

・悪性高熱症を疑った時点で人手を確保する

・誘発薬剤(吸入麻酔薬)の投与を中止する

・高流量の純酸素を投与する

※誘発薬剤の排出  呼吸性アシドーシスの改善

・ダントリウム(ダントロレンナトリウム水和物)を静脈内投与する

・中枢温が38℃以下になるまで冷却する(体表面の冷却や輸液製剤の使用)

・麻酔回路を新品に交換する

・心室性不整脈にはリドカイン塩酸塩を投与する(Ca拮抗薬はダントロレンナトリウム水和物と併用すると心停止の危険性がある)

・代謝性アシドーシスには炭酸水素ナトリウムを投与する

・高カリウム血症にはグルコース・インスリン療法を行う

・利尿には利尿薬を使用する

・切りの良いところまで続行し、後日患者の状態が安定してから再手術を計画

・DICに対して十分な止血を行う

・麻酔が必要であればNLA(フェンタニル、レミフェンタニルなどの麻薬類とジアゼパム系などの鎮静薬、あるいはプロポフォールなどの薬物を使用)

 

ダントリウムについて

悪性高熱症の対策として有名なのがダントリウムという薬剤です。

対策する上で欠かせないものになっています。

ダントリウムは別名、ダントロレンナトリウム水和物と言います。

 

薬理

悪性高熱症の主な原因として,骨格筋細胞内に存在する筋小胞体からの

Ca2+イオン遊離亢進が推定されている。

ダントリウムは骨格筋の興奮,収縮に作用し,筋小胞体から

Ca2+イオン遊離を抑制する。

この作用によって悪性高熱症に対して効果を発揮する。

 

☆ダントリウムの使用方法☆

①1バイアル 2mgを蒸留水 60mLで溶解する。

・温かい蒸留水を使用すると溶けやすい

・生理食塩水は凝固するので絶対に使用しない

②初回量1~2mg/kgを10~15分かけて静注する。

・通常の輸液と混注するとダントリウムが結晶化するため、投与は単独のルートから行う必要がある。また、溶解時のpHが高い(約9.5)ので静注する際には太い静脈から行い、溶液が

血管外の組織へ漏れないように注意する。

③以後心拍数低下、筋緊張が低下し、体温が低下するまで1㎎/㎏ずつ持続投与する。      症状により適宜増減し,総投与量は7㎎/㎏までとする。

※体重60㎏の患者の場合・・・最低でも20㎎のバイアルが3個必要

 

ダントリウムが院内のどこに何バイアルあるか知ってますか?

※院内に無い病院もある!!

※どの病院にあってどの病院に無いか病院間で把握できていない??

→ダントリウムが無い病院で発症した場合

速やかに所有している病院へ搬送し経過観察

※恐らく大きめの総合病院ならダントリウムがある??

 

ダントリウム    1バイアルの値段は  ¥9,479(2014)

5バイアルの値段は  ¥47,395(2014)

貯   法:遮光,室温保存

使用期限:製造後3年

 

最後に。

手術室では〝何事も起こらない〟のが当たり前の様に考えられがちです。

実際の所、何事も起こらずに終わることも多いと思います。

しかし、何事も起こさないためにはみなさんの努力も必要です。

そして、起こりそう、起こったしまった時にスムーズに対処できるのは日頃から知識を身に付けているからだと思います。

少しづつ、着実に知識を身に付けていきましょう。

 

引用参考文献

1.日本麻酔科学会・周手術期管理チームプロジェクト:周術期管理チー ムテキスト第2版.2011.公益社団法人.日本麻酔科学会

2.藤実(2012):臨床医のためのアレルギー診療ガイドブック,初版 (1),株式会社 診断と治療社,東京

3.西間,秋山,大田(2013):アレルギー総合ガイドライン2013,1 (1),株式会社 協和企画,東京

4.田中(2013):病態と治療戦略がみえる,免疫・アレルギー疾患イラ  ストレイテッド,1(1),株式会社 羊土社,東京

5.松永佳世子:ラテックスアレルギーのすべて安全対策ガイドライン準 拠、秀潤社、2007.

6.悪性高熱症友の会(2008):悪性高熱症とは(2014), homepage3.nifty.com/JMHA/

7.広島大学大学院麻酔蘇生学教室(2013):悪性高熱症とは(2014)     home.hiroshima-u.ac.jp/anesth/

8.埼玉医科大学麻酔学講座(2006):悪性高熱症について(2014)   www.saitama-med.ac.jp/uinfo/masui/MH-Index.html

9.菊池博達(2006):悪性高熱症(第1版),克誠堂出版,東京.住谷昌彦,康永秀生,他(2010):DPCを利用した悪性高熱症(MH)の発生統計とその解析,日本麻酔科学会年次集会 .

11.廣瀬宗孝:いつ起こる?なぜ起こる?どう対応する?術中・術後合併症50,株式会社メディカ出版