
こんにちは、あるいはこんばんは。一匹兎(@pepeopecn)と申します。
元手術室の看護師です。現在は大学で教員をしています。
みなさんはムーアの分類をご存じでしょうか。
ご存じの方も多いかもしれませんが、その名の通りムーア(Moore,F.D.)さんが考えた、術後の患者さんの生体反応の経過を示したものになっています。
難しい言い方をすれば、手術侵襲に対する生体反応と回復過程ということになります。
内容についてはほとんどの教科書に載っていますし、国家試験にも出てくる内容なのですが、なかなか覚えられない鬼門の部分になっている学生も多いのではないでしょうか。
この記事ではそんなムーアの分類について書いていきます。
ぜひ学修の参考にしていただければと思います。
看護師国家試験でも出題されている。
難しい内容でありながら看護師国家試験でも出題されている内容になっています。
まずは看護師国家試験の過去問を見てみましょう。
問1
第112回 午前44問
ムーア,F. D.が提唱した外科的侵襲を受けた患者の生体反応で正しいのはどれか。
1. 傷害期では尿量が増加する。
2. 転換期では循環血液量が増加する。
3. 筋力回復期では蛋白の分解が進む。
4. 脂肪蓄積期では活動性が低下する。
正答:2
- 1. 傷害期では尿量が増加する。
- 傷害期は尿量の減少、循環血液量の減少が特徴的である。尿量の増加がみられるのは転換期である。
- 2. 転換期では循環血液量が増加する。
- 傷害期にサードスペースにとどまっていた体液が、転換期になると血管内に戻ることから循環血液量が増加する。
- 3. 筋力回復期では蛋白の分解が進む。
- 蛋白の分解が進むのは傷害期である。筋力回復期(同化期)は、活動性や筋肉量が回復する。
- 4. 脂肪蓄積期では活動性が低下する。
- 脂肪蓄積期は、体重増加や月経の再開などが特徴的である。回復が進んでいるため、活動性は低下しない。
ムーアの分類は4つの段階(傷害期・転換期・筋力回復期・脂肪蓄積期)に分類される。術後経過と生体反応の基本的なことを押さえておこう。
問2
第99回 午前51問
Mooreの提唱した手術後の回復過程の第1相(異化期)の生体反応はどれか。
1. 尿量の増加
2. 血糖値の上昇
3. 脂肪組織の修復
4. 腸蠕動運動の再開
正答:2
1. 尿量の増加
- 尿量の増加は第2相である。第1相では尿量は減少する。
2. 血糖値の上昇
- 血糖値の上昇は第1相である。
3. 脂肪組織の修復
- 脂肪組織の修復は第4相である。第1相では脂肪分解が亢進する。
4. 腸蠕動運動の再開
- 腸蠕動運動が再開するのは第2相である。第1相では腸蠕動運動は停止、または微弱の状態である。
Mooreの提唱した手術後の回復過程であるMooreの分類を理解していれば解答できる。第1相[傷害期(異化期)]、第2相(転換期)、第3相(筋力回復期)、第4相(脂肪蓄積期)の4相からなる。それぞれに内分泌系、代謝系、臨床反応の特徴が示されている。
いかがでしょうか。
なかなか難しい内容だと思います。
事実、国家試験で出題されているのでしっかりと抑えていくことが重要と思います。
では次の項目から詳しく解説していきます。
異化と同化。
ムーアの分類を理解する上で非常に重要なのが、異化と同化の意味を理解することです。
少し難しい言葉かもしれませんが、この〝異化〟と〝同化〟をそれぞれ解説していきます。
ここは時間をかけてじっくり理解していきましょう。
異化(カタボリズム)
基本定義
異化(カタボリズム)とは、
体内の物質を分解してエネルギー(ATP)を産生する代謝。
複雑な物質 → 単純な物質
エネルギーが「出る」
と言われています。
が、正直分かりにくいです様ね。
簡単にまとめると以下になります。
異化とは…
栄養素を使っていく方向の代謝の事を言います。
栄養素(高分子化合物)を消化・代謝してCO2やH2Oなどの低分子化合物に分解する反応の事です。
高分子化合物とはデンプン、中性脂肪、タンパク質などを言います。
エネルギーを使っている、消費している状態になります。
例えば、空腹時には異化が進む、という事になります。
異化が亢進する状態
次の状態では 異化優位 になります。
発熱
感染症
外傷
手術後(周術期)
ストレス状態
飢餓・低栄養
⇒ 体は「生きるためのエネルギー確保」を最優先する様にできています。
| 影響 | 看護的に重要な点 |
|---|---|
| 筋肉量低下 | ADL低下・離床困難 |
| 体重減少 | 栄養障害 |
| 窒素バランス負 | 蛋白分解が進行 |
| 免疫低下 | 感染リスク↑ |
同化(アナボリズム)
基本定義
同化(アナボリズム)とは、
体内で物質を合成し、体をつくる代謝 のこと。
単純な物質 → 複雑な物質
エネルギーを消費する
もう少し簡単に言うと
同化とは…
栄養素を取り入れる方向の代謝の事を言います。
低分子化合物から高分子化合物を合成する反応です。
例えば、食後に同化が進む、という事になります。
どんどん食べれば同化が進み過ぎて太っていくことになります。
同化が亢進する状態
次のときは 同化優位 になります。
成長期
妊娠・授乳期
回復期(術後回復・感染回復)
栄養状態が良好
十分なエネルギー・蛋白質摂取時
「元気・回復・作る」状態
| 変化 | 看護的意義 |
|---|---|
| 筋肉量増加 | ADL改善 |
| 体重増加 | 栄養改善 |
| 創傷治癒促進 | 褥瘡・術創回復 |
| 免疫機能改善 | 感染予防 |
つまりは異化が進み過ぎればガリガリに痩せていくし、同化が進み過ぎればブクブク太っていくことになります。
第1相~第4相までに分類される。
ムーアの分類と言えばまずは第1相~第4相までに分類されることを知っておきましょう。
そしてその分類のそれぞれに名称があります。
さらにその分類の現れる順番というものがあり、その部分がまさに国家試験でも問われやすい部分になっています。
まずは分類を一つずつ見ていきましょう。
第1相:傷害期(異化期)-手術による侵襲開始から術後3~4日
主に起こること
・タンパク質異化亢進 ・尿量減少(尿中N排泄増加) ・疼痛 ・腸蠕動運動停止 ・発熱 など
神経・内分泌系の反応が中心となる時期になります。
この時期に注目すべき現象は
・頻脈 ・発熱 ・尿量減少 ・腸蠕動運動の減弱
になります。
これらの症状は周術期看護の中でも観察項目として非常に重要になります。
手術による侵襲開始から術後3~4日、とあります。
つまりはこの間は観察していく事が必要になります。
問答無用で観察項目として看護計画に書くべき項目です。
なぜ起こるのか(メカニズムについて)
ここは少し難しい話になりますが、なぜ上記の様なことが起こるのかという部分です。
それは体内にあるホルモンの影響になります。
特にストレスホルモンと言われるホルモンの作用があります。
第1相で作用するホルモンには以下のものがあります。
・成長ホルモン
・副腎皮質刺激ホルモン(ACTH)
・電解質(鉱質)コルチコイド
・糖質コルチコイド
・抗利尿ホルモン(ADH)
・アドレナリン
⇒強力なβ受容体刺激作用→心拍数・心収縮力の増加→循環血液量の維持
・ノルアドレナリン
⇒α受容体刺激作用→血管の収縮→血圧の維持
・レニン
・グルカゴン
・心房性ナトリウム利尿ペプチド(ANP)
特に注目したのが下線を引いているホルモンです。
そしてたまにこれらのホルモンについて国家試験でも問われることがあります。
ホルモン作用については、抗利尿ホルモンやアドレナリンといった所が良く出てくる印象です。
これらのホルモンを理解することで、特に抗利尿ホルモンの〝抗〟だから利尿されない、つまりは尿量が減少する、といった理解に繋がるかと思います。
また循環血液量の維持や、血圧を維持する作用こそ異化作用の一部になります。
☆サードスペースへの水分の貯留☆
手術を受けることによって侵襲を受けます。そして炎症が起こる、血管の壁がゆるくなる、血管の中の水分が外にしみ出すなどして、いわゆる血管でも細胞でもない、妙な隙間(サードスペース)に水分が溜まってしまいます。
それにより、尿量がさらに減少(抗利尿ホルモンによる影響の他)し、浮腫(むくみ)ができます。
ここで注意は浮腫があるから水分が足りている、という考えは安易です。
この記事ではここから先は説明しませんがこれに関しては全身状態をしっかり観察してアセスメントする必要があります。
☆新糖生☆
新糖生とは体内で糖を新たに合成するプロセスのことを言います。
糖の供給が促進される動きになります。
・肝臓に貯蔵されているグリコーゲンはグルコース(ブドウ糖)へ分解される。
・筋タンパク質や体脂肪の分解。
※体内に保存されている糖分(グリコーゲン)がなくなり、外部からの糖分の補給が途絶えたときに起こる。筋タンパクや脂質を分解して糖(グルコース)を作り出す反応。
これは術後に起こる外科的高血糖の要因にもなり得る所です。
ストレスホルモンの影響により、手術による侵襲の影響で高血糖が起きやすい、と覚えておきましょう。
外科的高血糖については別記事で詳しく説明することにします。
第2相:転換期(変換期)-異化期(第Ⅰ相)から同化期へ転換していく期間
術後3~4日辺りから始まり、1~3日続くとされています。
主に起こること
・内分泌正常化 ・疼痛軽減 ・排ガス増加 ・尿量増加 ・平熱 など
第1相で生じた神経・内分泌反応は沈静化に向かい、水・電解質平衡が正常化していく時期となります。
ただし、手術侵襲が過大であれば、転換期の時期は遅れ、第1相は遷延することになります。
術後合併症が発生してなかなか回復していかない場合もこれに当たります。
解熱 疼痛の軽減 体動・腸蠕動が活発になる
他に注目すべきことは以下の事が起きます。
抗利尿ホルモン(ADH)やアルドステロンによって体内のサードスペースに貯留していた水分が
体循環系へ戻り、ナトリウム(Na)と過剰な水分は尿となって排出される。
つまり、尿量が今度は出てくるということになります。
第1相で尿量が減少、出なくなったと思ったら今度は多過ぎるぐらいに出てくることになります。
以上の様な生体反応が起こるのですが、尿量に関してサードスペースの話を第1相でしました。
そのサードスペースに溜まっていた水分が一気に今度は尿として出てくるのです。
この様な流れで覚えておくと術後の経過が理解できるのではないでしょうか。
ここで一気に尿量として出てきたときに、これらを知らないでいると何か異常が発生したんじゃないか、一気に尿量が出たから脱水になるんじゃないか、と少し早とちりなアセスメントになってしまわないように注意しましょう。
第3相:同化期 筋力回復期 手術後1週間前後から始まり2~5週間持続する
食欲の回復 排便の正常化 内分泌バランスの正常化 創傷治癒機転の促進
が主に起こります。
段々と手術を受ける前の状態に近づいていきます。
これらのことが起きなければ安心して退院することができません。
最近の入院日数を減らす動きのせいで、完全回復する前に後は外来で、といったこともありますが、それでも基本的にはこの辺りの安心感を得てから退院調整に入ることが多いのではないかと思います。
第4相:脂肪蓄積期 術後数か月持続する
筋タンパク質の合成が進むとともに、脂肪が蓄積されていく。
ここまでくればもう退院していることが多いと思います。
手術を受けて退院しても少しの間はやはり本調子には戻らないと思います。
日常生活を始め、続けながら少しづつ回復していくイメージです。
ムーアの分類を理解する事で術後の看護に繋がることができる。
ムーアの分類を理解することで術後の患者さんの経過が理解しやすくなります。
術後何日目でどんな経過を辿りやすいか、何を観察していけば良いか、これらのことが想像しやすくなります。
少々難しい内容かもしれませんが、しっかり学修して実習や国家試験対策に役立てていきましょう。
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覚えにくい周術期の変化を「流れ」で理解するために
ムーアの分類は、看護学生がつまずきやすいテーマのひとつだと思います。
第1相〜第4相の順番が混ざる
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ただ覚えるだけでなく、理由も含めて整理したい
このPDFでできること
このPDFには、次のような内容を入れています。
第1相〜第4相の全体像(早見表)
異化/同化の整理
第1相(傷害期/異化期)の観察ポイント整理
第2相〜第4相の比較しやすい表
国試で混ざりやすいポイントの確認欄
実習・看護につなげる書き込みメモ欄
「覚えにくい」を、少しずつ「整理できる」に変えるためのシートです。
このPDFの使い方(おすすめ)
使い方①:記事を読んだあとに整理する
記事で全体を理解したあとに、PDFで順番や特徴を書き込みながら整理する使い方です。
使い方②:国試前の見直しに使う
「どの相で何が起こりやすいか」を確認するための見直し用として使えます。
使い方③:実習前・実習後の復習に使う
術後の観察(尿量、体温、腸蠕動など)と結びつけて考える練習に使えます。
先にお伝えしたいこと(大切な前提)
このPDFは、学習を整理しやすくするための補助資料です。
学校や先生によって、使う言葉や表現、重視するポイントが少し異なることがあります。
そのため、最終的には所属校の授業資料・教科書・先生の説明を優先してください。
このシートは、あくまで
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観察と結びつけて考える
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