【手術室看護師向け】手術に伴う患者・家族のストレス状況と受容過程の理解

こんにちは、あるいはこんばんは。一匹兎(@pepeopecn)と申します。

元手術室の看護師です。現在は大学で教員をしています。

手術を受けるとなったら少なからず不安やストレスは付きものです。

ストレスを全く感じないなんてことは無いでしょう。

患者だけでなく家族も同じようにストレスを感じていると思います。

この記事では手術に伴う患者・家族のストレスに着目します。

 

狙いとして

・手術に伴う患者・家族のストレス状況と、コーピングの理解に役立つ理論について学ぶ(ストレス・コーピング理論、危機理論)。

・事例学習を通して、患者・家族の手術の受容過程における看護支援について考える。

です。

難しい内容かもしれませんがゆっくり進めていきましょう。

 

周術期における患者・家族の心理的援助

周術期における患者・家族の不安を理解し、それを軽減したり取り除いたりできるよう医療チームで関わっていくことが重要。

→術後の回復過程にも関わってくるからです。

しかし、術中看護の書籍には手術室の看護支援の内容についてほとんど触れられていません。

手術室看護師が患者・家族の心理的援助に関わる時間が非常に短いことから、なかなか難しいとされています。

しかし、それで良いのでしょうか。

手術室看護師にも役割がしっかりとあるハズです。

 

周手術期とは。

・手術の実施が決定された時から、手術が終了して退院し、外来通院に至るまでの一連の期間のこと。

・手術前期、手術期、手術後期の3期に分けられる。

 

周手術期患者の心理的な特徴。

・周手術期全体を通して、「不安」という漠然とした感情を抱きやすい。

・手術を受けることを一旦は決意しても、期待と不安で気持ちは揺れ動く。

・手術前日~手術入室まで、気持ちは刻々と変化する。

→主治医からの手術の説明、看護師によるオリエンテーション、手術室看護師から麻酔科医の術前訪問など

 

高齢者の特徴。

・認知機能や理解力の低下

→思いが確かめにくい

・手術の決定において、家族の意向が優先される傾向

・社会的役割の変化により、生きがいの喪失や闘病意欲の低下

・経済的な問題

 

最近の手術の動向

術前の入院期間の短縮:前日入院の増加

→術前オリエンテーションや術前訓練は外来で指導済み。

→入院から手術まで、患者の不安軽減に介入する時間が短い。

あっという間に手術当日を迎える傾向にある。

 

緊急手術における患者の特徴。

身体的側面

・生命の危機が切迫している

・術前の臓器機能の改善を図る時間的余裕がない

心理的側面

・不安が強く、心理的危機状態にある

・時間的制約のある中で、手術を含む治療法選択の意思決定をしなければならない

・術後の身体的変化に対する心理的準備ができていない

社会・経済的側面

・入院、手術に伴う役割遂行の中断に対して準備ができていない

・手術後の機能喪失に伴う生活への支障に対して準備ができない

・保険や補償に関連した問題

 

手術を受ける患者のコーピング

コーピング様式意味
問題状況の再認知病気や手術がもつ驚異的な意味を変える様に状況を認知し直す
おまかせ医師に任せる

「信頼して任せる」「言われる通りに従う」「あきらめて任せる」

情報の探究病気や手術について情報や助言を求める
回避現実の問題を直視しないで避けようとする
感情の表出自分の気持ちを表出することによって緊張や不安を減らす
問題に取り組むストレスの原因になっている問題や状況と積極的に対決する

岡谷恵子:手術を受ける患者の術前術後のコーピング分析,看護研究,21(3),1988.261-268

 

緊急手術におけるコーピングの特徴

・「この苦痛を取って欲しい」「とにかく助けて欲しい」といった苦痛の軽減と生命の保障に対するニードが高くなる。

→「おまかせ」を取りやすく、予定手術患者が行う「情報の探究」や「回避」「感情の表出」があまり取られないまま手術に至る。

 

・自分で意思決定を行うことが出来ず、家族の代理意思により手術を迎える場合もある。

→術後の状況において、コーピングが上手く取られないと、手術による身体的・機能的変化に困惑する。

せん妄の出現、ボディイメージの変容に対する適応障害やリハビリテーションの意欲が低下(術後の回復過程に影響する)する。

 

・パニック

「極度の不安やストレスに晒されることにより、心理的に混乱して予想外の行動を突発的に取ることをパニックを起こすと言う」

・せん妄

「突然に注意力や思考力が低下したり、意識レベルの変化や見当識障害が生じている状態をせん妄と言う」

 

⇒これらの反応を示す患者の中には心理的な混乱に生理的な問題が強く関与している者や、病態の悪化症状としてこれらの症状を示す者がいることに注意する。

生命に危害が及ばないことに注意を払い、その場その場で冷静に対応する。

 

家族の心理的反応

・家族もまた様々な不安を抱える。

・患者を支えなければならない立場と大切な人を喪失するかもしれないという気持ち。

・表出できない思い。

・手術室で何か突発的なことは起こっていないかという不安。

・家族内役割の変化。

・経済的な問題。

 

手術に伴う患者・家族のストレス状況と受容過程の理解に役立つ理論 ストレス・コーピング理論

ラザルス:個人がストレッサーをどのように評価し、コーピング(対処)を行っているのか、その過程を説明した理論

 

ストレスと適応

・人は刻々と変化する環境からのストレス刺激を受けながら、それに対応し、心身の諸機能を保ち適応している。

・ストレス刺激は、自然、物理的、社会的なあらゆる環境に存在し、ストレスを受けた人の反応も、生理的、心理的に影響が現れる。

 

コーピング

・ストレスフルと評価された事象や出来事に適応することを目指して行われる、考えることや行動することを含む個人の意識的、行動的な努力のこと。

・人間と環境(事象や出来事)との関係が刻々と変化する中で、認知評価に基づいて行われる動的なプロセス。

 

理論の活用

・危機をもたらしたものをストレッサーに見立てることによって、ストレス・コーピング理論を用いて危機をアセスメントし、危機介入に結び付けることができる。

・適応範囲が広いので、危機状態にあるあらゆる対象に活用できる。

問題中心コーピング

ストレスフルな状況を変化させるため問題解決に向けて何かをおこなうこと

例)情報を収集する

問題の所在を明らかにする

いくつかの解決策を試みる   など

 

術前患者のコーピングパターン

【問題中心コーピング】

例)疾病や手術に関する本を読む

体験者から情報を集める

術前訓練に励む

人生の振り返りの機会とする   など

 

コーピングモード(実際の行動)

①直接的行為

遭遇したストレスを引き起こす様なできごとを変えたり、あるいはその出来事について直接何かをすること。

②行為の抑制

何もしないで、ただその出来事を受け入れること。

 

③情報の収集

その出来事について何かをするよりも、もっとその出来事について良く知るようにすること。

④認知的対処

その出来事について自分がしたいことを思いとどまるようにしたり、見方を変えること。

 

再評価

ストレッサーに関する新しい情報や、自分自身の反応から得られた情報に基づいて変えられた評価で、この再評価により「適応」または「ストレス反応の持続」という過程に至り、ストレスが持続する場合は再び評価を行い、適応に至るまでコーピングが繰り返される。

 

ストレス・システムに影響を与える要因

・人的変数(個人の要因)

その人の価値観、目標、信念、パーソナリティ など

・環境変数(環境の要因)

要求、資源、社会的支援、抑制  など

 

ストレス反応

・直接的効果、影響

→直後など短期的な反応で、生理的な身体の変化、感情のポジティブまたはネガティブな変化、出来事がもたらす体験の内容

・長期的、影響

→身体的健康への影響、自信や意欲の変化、社会的機能の変化 など

 

最後に。

手術を受けるという事は患者だけでなく、家族にもかなりの影響を与えます。

さらに個人差も大きくなっていると思います。

どうしても患者主体で考えてしまいがちですが、家族への配慮・対応についても真剣に考えていかなければなりません。

特に大きな手術や緊急手術であったりした場合、家族の不安や緊張は測りしえないくらい大きなものになっていると想像します。

手術室看護師としてなかなか関わることのできない所ではありますが、仕方ないで終わらせるのではなくもっとより良いアプローチに繋げていくためには、家族の心理状態を知ることが第一歩と思います。

その際にストレス・コーピング理論は非常に活用しやすいと言えます。

ぜひ皆さんも自己研鑽して、この理論を理解して使ってみてください。