
こんにちは、あるいはこんばんは。一匹兎(@pepeopecn)と申します。
元手術室の看護師です。現在は大学で教員をしています。
みなさんは『コンフリクト』という言葉をご存じでしょうか。
なかなか聞きなれないと思います。
私は某研修の際に初めて聞きました。
人間関係を捉える上で知っておくと良い言葉です。
特に管理職など周りをまとめる立場にいる方にとってはコンフリクトの言葉の意味だけでなく、解消方法までしっかり理解することでスムーズに物事を進めることが出来る対策にも繋がります。
コンフリクトとは?
コンフリクト(conflict)とは、
「利害・価値観・意見などが対立し、緊張や摩擦が生じている状態」
のことを指します。
つまり、人と人、集団と集団の間に起こる“衝突”や“葛藤”です。
日本語では「対立」「葛藤」「衝突」「軋轢」などと訳されます。
『一方の当事者が、他方の当事者が自分にとって重要な事柄に悪影響を及ぼした、あるいは及ぼそうとしていると認知した時点で始まるプロセス』
スティーブンP.ロビンス:組織行動のマネジメント.2009
目標の不一致・事実の解釈をめぐる相違・期待する行動に関する食い違い
といった様に要約されています。
コンフリクトの意味にはちょっとネガティブな意味で考えられることが多いのですが、
ここで注目したのが、コンフリクトがこの先『プラスになるかマイナスになるか』はそれに関わる人間のマネジメント能力によるという事です。
特に管理職の方はここでマネジメントの大切さと、効果的なマネジメントの方法を理解する必要がある事に気付くと思います。
その意味でもコンフリクトについてまずは理解していきましょう。
コンフリクトの主な種類
| 種類 | 内容 | 例 |
|---|---|---|
| 人間関係のコンフリクト | 個人間の感情・性格の不一致 | 同僚同士が性格的に合わず、口論になる |
| 役割コンフリクト | 役割や期待の不一致 | 上司と部下の指示が矛盾している |
| 価値観コンフリクト | 信念・価値観の違い | 「患者中心の看護」か「効率重視」かで意見が対立 |
| 情報コンフリクト | 情報の不足・誤解によるもの | 情報伝達ミスで業務トラブルが発生 |
| 目標コンフリクト | 目的の違いによる対立 | 医師は早期退院を望むが、看護師は在宅支援を重視して調整が必要 |
コンフリクトの3つの種類
- 個人内の対立
二つの選択肢のどちらかを選択しなければならない場合。
※明日までに資料を作るか 見たいドラマを観るか…
- 個人間の対立
二人以上の個人間の対立。
価値観・目的・行動・認識の違いが原因となって生じる。
※和食が食べたいか洋食が食べたいか…。
価値観の違いによる対立はデリケート。
対処しようとして対立が深まることもある。
- 組織内の対立
異なる目的や認識の違いで生じる。
組織の構造や機能が原因となっている。
コンフリクトのプロセス
コンフリクトは次のようなプロセスで発生します。
第一段階:潜在的なコンフリクト
まだ表面化していないコンフリクト
①個人や集団、組織がコンフリクトを引き起こす要素
②コンフリクトを生み出す先行条件
1.コミュニケーション
師長は医師の命令を絶対とする権威主義的傾向
下向きコミュニケーション
スタッフは意見が言えない雰囲気
2.構造
三次救急指定病院で予定手術に加えて緊急手術が多い
手術室増設 スタッフは増員なく常に多忙
眼科手術は年々手術件数が増加している 外来後に手術
手術が効率よく行われる事を優先して考えられたシステム
3.価値体系
医師の命令を絶対とする師長
第二段階:認知と個人
当事者が先行条件の存在に気づき、コンフリクトを認知し、個人が感情的に関与する段階
ナース:
・前投薬を投与された患者が、看護師のいない廊下で寝かされている状況を危険だと感じ、この様な方法を行っていることが問題だと気付いている。
・医師の命令に絶対服従で効率性のみを重視する師長の態度についても不満を感じている。
師長:
・医師の意向や効率性を考えて手術室の運営をしているのに、研修から戻ったばかりのナースに問題だと指摘されたことに腹立たしさを感じた。
・新人看護師も巻き込んで業務を改善しようとするナースのことを疎ましく感じている。
第三段階:明確なコンフリクト
実際に相手を妨害しようという意図的な行動
ナース:
・師長に対し日頃から感じていた疑問を責めるような口調で尋ねた。
師長:
・ナースに避難されたようで腹立たしさを感じ、質問に対して怒った口調で答えた。
・対立の処理処方として、その場を去るという回避行動を取ろうとした。
しかしナースが何か言おうとした為に病棟会議を開くことを提案した。
・師長としての権威を利用し、勝利を得ようとした。
・主任に依頼しナースを制圧しようとした。
新人ナース:
・病棟会議で疑問や解決策を発言
主任
・病棟会議では発言せず、後日ナースを呼び出し非難する。
![]()
第四段階:結果
プラスになる場合とマイナスになる場合がある
・ナースの疑問をきっかけに病棟会議で話し合いが行われた。
看護師の一部では患者の安全や安心について認識が高まった。
⇒集団業績の向上に繋がる 安全・安心な看護の提供
・会議で意見を言ったにもかかわらず〝師長と主任に一任してほしい〟という師長の行動は、〝何を言っても変わらない〟という諦めの気持ちを抱かせる結果となっている。
・主任から呼び出され非難されたナースは意欲を低下。
⇒非生産的な結果を招いている
![]()
コンフリクトの原因
1.事実についての認識の違い
師長:患者の安全性に問題は無い
ナース:患者の安全性や倫理的配慮に欠ける
2.取るべき手段の違い
師長:病棟会議を提案(威圧的に)
ナース:ある日突然に師長に問題を指摘
3.目標としての認識の違い
師長:手術が効率よく行われる 医師の意向に添う
ナース:安全で安心できる手術看護の提供
4.価値観の違い
患者中心に見るのか、効率性を優先するのか
5.コミュニケーション不足
師長:日頃から権威主義的。会議の場での発言無し。
主任:会議の場での発言無し。後日ナースを非難。
ナース:ある日突然に問題を指摘している。
コンフリクトの解決スタイル(5つのタイプ)
心理学者トーマスとキルマン(Thomas & Kilmann)が提唱した有名なモデルがあります。
| スタイル | 特徴 | 使う場面 |
|---|---|---|
| 競争(対立)型 | 自分の主張を通す。 自分の意見は曲げずに競争して支配する。 | 緊急時・リーダー判断が必要なとき |
| 回避型 | 対立を避ける。 対立を避けるため引き下がったりコンフリクトを抑圧しようとする。 互いに物理的な距離を置き相手の領域に入らないようにする。 | 小さな問題・感情的な相手 |
| 適応型(順応) | 相手に合わせる。 関係を維持するために相手の利益を自分の利益よりも優先させる。 | 関係を重視するとき |
| 妥協型 | お互いが少しずつ譲る。 お互いが折り合いをつける様に妥協案を出す。 | 中間案を出すとき |
| 協調型(協働) | 双方の利益を探す。 協力してお互いの利益をもたらす様に努力する。 | 長期的な信頼関係を築きたいとき(理想形) |
看護現場でのコンフリクトの例
| 例 | 内容 | 対応策 |
|---|---|---|
| 看護師同士の価値観の違い | 「早く終わらせたい」vs「丁寧にケアしたい」 | 相手の意図を聴く・ケアの目的を共有する |
| 医師と看護師の方針の違い | 「退院を早めたい」vs「在宅支援がまだ」 | 情報共有会議で多職種間で合意形成 |
| 家族との対立 | 「延命を望む家族」vs「患者本人の意思尊重」 | 倫理委員会・カンファレンスで話し合う |
コンフリクトは悪いことではない
実は、コンフリクトは「組織成長のチャンス」でもあります。
適切に扱えば、以下のようなポジティブ効果を生みます。
問題意識の共有
新しいアイデアや改善策の誕生
チーム内の信頼構築
意思決定の質の向上
コンフリクトを上手に解決するポイント
まず「聴く」ことから始める(傾聴)
相手の立場・目的を理解する
感情と事実を分けて考える
問題の“根本原因”に注目する
共通のゴールを再確認する
第三者(上司・ファシリテーター)を活用する
どうすれば良かったのか。
・計画的にアプローチ
先輩・後輩・医師・病棟看護師へ
・アサーティブコミュニケーション
師長の価値観を理解する姿勢
スタッフの意見を聞く姿勢
・安全管理や倫理的視点からも手術室の運営を見る。
・患者もスタッフも守る。
・手術室の運営についても関心を持つ。
・患者を中心としたチーム医療の連携。
・チームメンバーと話し合う。
など
コンフリクトはチームを成長させる。
・現状改革のための原動力を与える。
・お互いの業務や責任についての理解を助ける。
・新たなコミュニケーションの通路を開く。
・資源やパワーの平等な分配をもたらす。
・人々に活力を与え、創造性をもたらす。
コンフリクトマネジメントには
対立に関わって解決するだけでなく、介入方法とその時期を決定する役割もある。
まとめ
| 観点 | 内容 |
|---|---|
| 定義 | 対立・葛藤状態 |
| 原因 | 価値観・情報・役割・資源不足など |
| 影響 | 放置すると悪化、解決すれば成長につながる |
| 解決法 | 聴く・理解する・協調する |
| 看護現場では | チーム医療の要。信頼と情報共有が鍵。 |
看護現場では「人間関係」や「多職種連携」など、日常的にコンフリクト(対立・葛藤)が生じやすい環境にあります。
ここでは、看護現場での代表的なコンフリクト事例と、その効果的なマネジメント方法を詳しく解説します。
看護現場のコンフリクトマネジメント
〜具体的事例と対応のポイント〜
看護現場でコンフリクトが起きやすい背景
看護の現場は、以下のような要素が重なり、対立が起こりやすい環境です。
| 要因 | 内容 |
|---|---|
| 多職種連携 | 医師・看護師・リハ職・薬剤師などが異なる立場・目的で関わる |
| 価値観の違い | 「安全・効率・人間性」など、優先順位が人によって違う |
| 役割の不明確さ | 指示系統や責任の範囲が曖昧 |
| 感情的ストレス | 忙しさ・命を預かる責任感・人手不足による疲弊 |
| コミュニケーション不足 | 申し送りの省略や報連相の抜けなど |
コンフリクトの種類(看護現場でよく見られる)
| 種類 | 内容 | 例 |
|---|---|---|
| 看護師同士の対立 | ケア方針・仕事配分など | 「新人が遅い」「先輩が厳しすぎる」 |
| 看護師と医師の対立 | 治療方針・優先順位の違い | 「この患者は退院できる」vs「まだ早い」 |
| 看護師と患者・家族の対立 | 説明不足・価値観の相違 | 「延命したい」vs「本人は望んでいない」 |
| 管理者とスタッフの対立 | 業務量・シフト・評価 | 「残業減らせと言われても人手が足りない」 |
具体的な事例と対応策
【事例①】新人看護師と先輩看護師のコンフリクト
状況
新人が業務をこなすのに時間がかかり、先輩が「もっと早くして」と指摘。
新人は「焦らされて萎縮する」と感じ、職場の雰囲気が悪化。
原因分析
価値観の違い(スピード重視 vs 安全重視)
コミュニケーション不足
指導方法の不一致
対応策
双方の立場を聴く(傾聴)
→ 「どういう時にストレスを感じたか」を具体的に共有。目的を共有する
→ 「患者安全を守る」「チームで支える」という共通ゴールに立ち返る。指導方法を見直す
→ 指摘ではなく“フィードバック”へ転換(Iメッセージ:「あなたが悪い」ではなく「私はこう感じた」)。定期的な振り返り面談を設定
→ 感情が溜まる前に小出しで対話。
【事例②】医師と看護師の方針対立
状況
医師は「早期退院」を指示。
看護師は「ADLが低く、在宅生活が困難」と判断。両者の間で摩擦が発生。
原因分析
目標コンフリクト(医師=医療的治癒、看護師=生活支援)
情報共有不足(在宅環境や家族の状況が医師に伝わっていない)
対応策
カンファレンスで事実を整理
→ 看護記録・ADL評価・家族状況などを共有。「患者の最善」を軸に再検討
→ 個人の立場ではなく“患者中心”を基準に話す。調整役(看護師長やMSW)を介入させる
→ 感情対立を防ぎ、冷静な合意形成へ。
【事例③】家族とのコンフリクト(延命治療)
状況
終末期患者。本人は延命を望んでいないが、家族が「諦めたくない」と主張。
看護師が板挟みに。
原因分析
価値観・信念の相違
感情的な否認反応(家族側の受容過程)
対応策
家族の感情を受け止める(まず“聴く”)
→ 「大切に思っているからこそですよね」と共感的に。情報の整理と共有
→ 医師・看護師・MSWでチーム説明。本人の意思を尊重。倫理的視点で支援
→ 倫理カンファレンスやACP(アドバンス・ケア・プランニング)を活用。継続的な支援
→ すぐに解決せず、時間をかけて信頼関係を構築。
コンフリクト・マネジメントの基本プロセス
| ステップ | 内容 |
|---|---|
| ① 認識する | 対立の存在に気づく(「なんとなく雰囲気が悪い」もサイン) |
| ② 分析する | 原因・関係者・影響範囲を整理 |
| ③ 対話する | 感情ではなく事実ベースで共有(傾聴・共感) |
| ④ 協働で解決策を考える | 共通の目的を再設定(例:患者のQOL) |
| ⑤ フォローアップする | 一度で終わらず、再発防止の仕組みづくり |
管理者(リーダー)の役割
| 項目 | 具体的対応 |
|---|---|
| 観察力 | メンバー間の不調サインを早期に察知 |
| 中立性 | 感情的に片方に肩入れしない |
| ファシリテーション | 話し合いの場を整える |
| 教育 | コミュニケーション研修・倫理研修を企画 |
| 組織文化づくり | 「言いやすい職場」「対話できる文化」を醸成 |
コンフリクトを“成長”に変える視点
| マイナスに見える対立も… | プラスに転換できる視点 |
|---|---|
| 意見の食い違い | 多様な視点が集まるチャンス |
| 不満の噴出 | 改善点が見える機会 |
| チームの混乱 | 新しい協働ルールを作る契機 |
まとめ
| 観点 | 要点 |
|---|---|
| 目的 | コンフリクトを「解消」ではなく「成長」に導く |
| 基本姿勢 | 傾聴・共感・中立・協働 |
| 重要スキル | コミュニケーション・感情コントロール・倫理的判断 |
| 結果 | チームの信頼関係が強まり、ケアの質が向上 |
看護現場のコンフリクト対応マニュアル
コンフリクトに役立つ書籍
![]()