
こんにちは。一匹兎(@pepeopecn)と申します。
元手術室の看護師です。現在は大学で教員をしています。
みなさんはMDRPUという言葉をご存じでしょうか。
私は大学職員になって初めて耳にしました。
実は看護師の現役時代からあった言葉みたいですが、お恥ずかしながら全く知りませんでした。
私は看護師人生のほとんどを手術室看護師として過ごしていましたが、手術室にもMDRPUがあったなと思い出しています。
この記事ではMDRPUを取り上げてご紹介していきます。
MDRPU(医療関連機器圧迫損傷)について知ることが出来る。
MDRPUの定義。
医療関連機器圧迫損傷(Medical Device Related Pressure Ulcer:MDRPU)
「医療関連機器による圧迫で生じる皮膚ないし下床の組織損傷であり、厳密には従来の褥瘡すなわち自重関連褥瘡(self load related pressure ulcer)と区別されるが,ともに圧迫創傷であり広い意味では褥瘡の範疇に属する。なお,尿道,消化管,気道等の粘膜に発生する創傷は含めない。」
※日本褥瘡学会学術委員会
従来の褥瘡と異なり、骨突出部以外の部位にも生じやすい
医療機器の形状に沿った明確な形(輪郭)で現れるのが特徴
英語では Medical Device Related Pressure Ulcer と呼ばれ、NPUAP(National Pressure Ulcer Advisory Panel)も国際分類に含めています。
定義としては以上の様に定められています。
尿道や消化器、気道等の粘膜に発生する創傷は含めない、というのが肝でしょうか。
発生メカニズム。
MDRPUは、主に以下の3つの要因で発生します。
持続的圧迫
機器が皮膚・粘膜に長時間接触し、血流が阻害される。ずれや摩擦
固定や位置調整の際に皮膚が引っ張られる。湿潤環境
呼気、発汗、滲出液などによる湿潤で皮膚が脆弱化。
どこかで聞いたことがあるかと思います。
褥瘡や発赤が発生する要因でしたね。
定義にもありますがMDRPU(医療関連機器圧迫損傷)は広い意味では褥瘡の範疇に属することになります。
医療機器とは。
「人もしくは動物の疾病の診断,治療もしくは予防に使用されること,または人もしくは動物の身体の構造もしくは機能に影響を及ぼすことが目的とされている機械器具などにあって法令で定めるもの」
※医薬品医療機器法
これには手作りの抑制帯も当てはまります。
医療関連機器の例
・深部静脈血栓症予防用弾性ストッキング ・非侵襲的陽圧換気療法マスク
・ギブス,シーネ(点滴固定用含む) ・経鼻経管法用チューブ(経鼻胃チューブ等)
・経ろう管法用チューブ(胃ろう等) ・間欠的空気圧迫装置
・手術用体位固定用具(手台,支持板等) ・血管留置カテーテル(動脈ライン,末梢静脈ライン)
・尿道留置カテーテル ・経皮的動脈血酸素飽和度モニター(SpO2モニター)
・抑制帯 ・車椅子のアームレスト,フットレスト
・酸素マスク ・経鼻酸素カニューレ
・気管切開カニューレ ・気管内チューブ(経鼻または経口気管挿管専用チューブ, バイトブロック)
・酸素マスク,気管切開チューブの固定用ひも ・気管切開カニューレ固定具
・上肢装具(指装具,把持装具,肩装具,など) ・下肢装具(整形靴,短下肢装具,長下肢装具,など)
・体幹装具(胸腰仙椎装具,頸椎装具,など) ・介達牽引
・ベッド柵
など
発生しやすい部位と機器の例。
機器の種類 | 発生しやすい部位 | 具体例 |
---|---|---|
呼吸器・酸素療法関連 | 鼻梁、耳介、頬部、口唇周囲 | 挿管固定テープ、NPPV/CPAPマスク、酸素カニュラ |
循環管理・モニタリング機器 | 手首、前腕、足首、足背 | 動脈ライン固定具、血圧計カフ、パルスオキシメータ |
栄養・輸液関連 | 口角、頬、首部 | 胃管、中心静脈カテーテル固定具 |
整形外科関連 | かかと、下腿、手指 | ギプス、シーネ、装具 |
その他 | 頭部、顔面、耳介 | 外科用ヘッドバンド、耳かけ式補聴器 |
従来の褥瘡との違い。
項目 | 従来型褥瘡 | MDRPU |
---|---|---|
主な原因 | 体重による骨突出部への圧迫 | 医療機器による局所圧迫 |
好発部位 | 仙骨部、大転子部、踵部など | 鼻梁、耳介、口唇、四肢の機器接触部位 |
形態 | 不定形・潰瘍状 | 機器の形に沿った輪郭(丸型、線状など) |
予防策 | 体位変換、圧抜きマット | 機器固定法の工夫、保護材の使用、位置変更 |
リスク因子。
長時間の医療機器装着(ICUや長期療養患者)
皮膚脆弱性(高齢者、ステロイド内服、栄養不良)
感覚鈍麻(意識障害、神経疾患)
発汗や滲出液による皮膚浸軟
装着機器のサイズ不適合や固定の強すぎ
発生要因。
1.機器要因
■サイズ・形状の不一致 ■情報提供不足
2.個体要因
■皮膚の菲薄化 ■循環不全 ■浮腫 ■機器装着部の湿潤
■機器装着部の軟骨・骨・関節等の突出 ■低栄養
■感覚・知覚・認知の低下
3.ケア要因
■外力低減ケア ■スキンケア ■栄養補給 ■患者教育
4.機器&ケア要因
■フィッティング
5.機器&個体要因
■中止困難
など
予防方法。
国際ガイドライン(NPIAP・EPUAP・PPPIA)や日本褥瘡学会の推奨事項によると、以下が有効とされています。
定期的な皮膚観察
機器装着部位は1日1回以上確認
発赤や硬結があれば直ちに対策
機器の適正サイズ選択
小さすぎる・大きすぎる装具は避ける
装着部位の位置替え
可能なら数時間ごとにずらす
保護材の使用
鼻梁や耳介にシリコーンゲル、ポリウレタンフィルム、フォームパッド
固定方法の工夫
強すぎず、ずれにくいよう調整
皮膚の清潔・乾燥保持
汗や湿気の除去、バリアクリーム使用
治療・管理。
初期(皮膚発赤のみ):機器の除去または圧迫緩和、保護材使用
進行(びらん・潰瘍):創傷管理(湿潤環境維持・感染対策)、必要に応じ皮膚科や形成外科コンサル
原因機器の見直しと再発予防策の徹底が必須
関連ガイドライン・参考図書。
NPIAP/EPUAP/PPPIA国際褥瘡予防・治療ガイドライン(2019)
日本褥瘡学会「褥瘡予防・管理ガイドライン第5版」
→ MDRPUの定義や予防策も明記されている
・医療関連機器圧迫創傷の予防と管理: ベストプラクティス
特にこちらの本はMDRPU(医療関連機器圧迫損傷)を勉強する上で非常に勉強になりました。
私は研修で講義をしたことがあるのですが、その資料もこちらを参考にさせていただきました。
手術室でのMDRPU(医療関連機器圧迫創傷)。
手術室でのMDRPU(医療関連機器圧迫創傷)は、ICUや長期療養と並んで発生リスクが非常に高い領域です。
理由は「長時間の体位固定」「複数の医療機器装着」「患者が自ら動けない」という条件が重なるためです。
手術室特有のMDRPUの特徴
短時間で発生する可能性がある
通常の褥瘡は数時間単位の圧迫で発生しますが、手術中は血圧低下や低体温、組織酸素供給の減少などで皮膚耐久性が低下しているため、1〜2時間程度でも皮膚損傷が起こり得ます。骨突出部以外にも好発
頭部、顔面、耳介、四肢など、機器接触部位に一致した形で出現します。予防困難なケースも多い
手術に必要な機器や固定具を外せないため、圧迫除去が難しいことがあります。
発生要因
カテゴリ | 具体例 | 説明 |
---|---|---|
体位固定具 | ヘッドレスト、フェイスクッション、アームボード | 固定による局所圧迫、ずれによる摩擦 |
医療機器・チューブ類 | 気管チューブ、マスク、バイトブロック、口腔固定テープ | 顔面や口周囲の皮膚損傷 |
モニタリング機器 | 血圧計カフ、パルスオキシメータ | 同部位への繰り返し圧迫 |
術野確保具 | レトラクター、牽引装置 | 長時間の局所圧迫 |
温度管理装置 | 体温保持用ブランケット・パッド | 湿潤や熱による皮膚脆弱化 |
好発部位
顔面部:鼻梁、頬骨、口唇周囲(マスクや固定具)
耳介部:フェイスマスク・ヘッドバンド
後頭部:ヘッドレスト
上肢:手首・前腕(血圧計カフ、IV固定具)
下肢:足首・踵(ストッキング、ポジショナー)
その他:胸部(牽引ベルト)、腹部(圧迫板)
リスク増加要因
長時間手術(3時間以上)
高齢・低栄養・低BMI
低血圧・低体温
感覚麻痺(全身麻酔下)
血流障害(糖尿病、動脈硬化)
出血量多・輸液量多による浮腫
予防策
国際ガイドライン(NPIAP/EPUAP/PPPIA)と日本褥瘡学会の推奨を手術室向けに応用
術前評価
手術時間・体位・必要機器を確認し、リスクスコア(Braden Qなど)評価
適切な保護材の使用
鼻梁・頬骨・耳介・踵などにシリコーンゲルパッド、フォームドレッシング
機器・固定具の適正化
固定具は必要最小限の圧で装着
血圧計カフは交互測定または測定間隔延長
体位・機器位置の微調整
術中でも可能な範囲で位置ずらし
術後観察
手術直後に接触部位の皮膚を必ずチェック
発赤・硬結があれば早期対応
術後のMDRPU発生例
6時間以上の開心術後、鼻梁にNPPVマスク形状の潰瘍
腹臥位脊椎手術後、頬部にフェイスクッション形の発赤・水疱
長時間側臥位での耳介潰瘍
脳外科手術後、後頭部に円形潰瘍(ヘッドレスト跡)
まとめ
手術室のMDRPUは、
短時間で進行
骨突出部以外に出現
予防策が限られる
という特徴があります。
そのため、術前計画・術中配慮・術後観察の三段階予防が重要です。
最後に。
今回はMDRPU(医療関連機器圧迫創傷)について書いてみました。
数年前から話題に挙がっているMDRPU(医療関連機器創傷)ですが、手術室でも特に起こりうることとして十分に注意しなければなりません。
対策の部分についての情報が今回の記事では少なかったので別記事で実際の例などもお伝えできればと思います。