【看護学生向け】手術室見学実習が難しい理由|できないのは能力の問題ではない。

こんにちは、あるいはこんばんは。一匹兎(@pepeopecn)と申します。

元手術室の看護師です。現在は大学で教員をしています。

今回の記事では手術室の見学について書いていきます。

やはりと言っては何ですが、見学行く前の学生は非常に緊張して、どんなことになるのか想像もつかない状況の様です。

そこで、難しいと言われる所以を考察してみました。

手術室見学実習は、多くの看護学生にとって見学する前は「難しい」と思いがちです。

ですが、実際手術見学をして帰って来る学生を見ると、目がキラキラして

本当に楽しそうにして帰ってきます。

そこで貴重な多くの経験と、学びを得て帰って来るようです。

 

手術見学の前に感じる手術見学への難しさの根底には

・専門用語が多すぎる
・動きが速すぎて理解が追いつかないのではないか
・何を見ればいいのか分からない
・立っているだけで終わった感覚になるのではないか
・質問するタイミングが掴めない

こうした思いが先行するからです。

 

しかし、最初にお伝えしたいことがあります。

手術室見学実習が難しいのは、あなたの能力不足ではありません。
構造的に難しい環境なのです。

この記事では、手術室実習が難しく感じる理由を「努力不足」ではなく「環境の構造」から整理します。

手術室見学実習は、ただ「難しい」のではなく、学びにくくなりやすい構造をいくつも含んでいるように思います。

看護基礎教育でも、臨地実習は単なる見学ではなく、学習目標や振り返りを伴いながら質を担保していくことが重視されています。

1.情報量が圧倒的に多い。

手術室見学実習では、限られた時間の中に多くの情報が一気に入ってくるため、学生が「何を見ればよいのか」をつかみにくくなりやすいとされています。

実際、観察の視点を事前に示したり、記録用紙で観察ポイントを可視化したりすることが、学習を助ける一つの方法として報告されています。

手術室は〝情報の洪水〟です。

病棟実習では、患者の経過を時間をかけて追うことができます。観察し、記録し、振り返る余白があります。

しかし手術室では、

・術式の理解

・術野の動き
・解剖学的知識
・麻酔管理
・無菌操作
・器械出し看護師と外回り看護師の役割
・モニターの変化
・器械の名称と用途
・体位固定の実際
・出血量の管理
・タイムスケジュール管理

などなど

これらを理解していないと難しい現場です。

しかも、会話は専門用語中心で、スピードも速い。

病棟で感じる時間と、手術室では一味違います。

〝今この瞬間〟が連続して起きています。

学生が理解できないのは当然です。
“理解力が足りない”のではなく、“処理量が多すぎる”のです。

何を見れば良いか分からない、といった状況にも陥りやすいです。

 

2.学生の役割が見えにくい。

手術室実習では、学生が自分の役割をつかみにくく、「ただ見て終わる」感覚になりやすいこともあります。

そのため、手術室看護師には、学生が何に注目すればよいのかを示したり、周術期看護の中で見学の意味づけをしたりすることが期待されています。

病棟では、学生が主体的に行動できます。

・バイタル測定
・清潔ケア
・患者との会話
・記録

などなど

行動=学習になります。

一方、手術室は清潔管理が厳格で、所謂無菌操作のオンパレード。

学生は

不用意に動けません。触れません。介入できません。

結果として、「何もできなかった」と感じやすい。

しかし実際には、手術室実習は難しく言うと

“観察と思考の実習”です。

見る力、考える力、予測する力が求められます。

ですので、基本的には見学がメインの実習になります。

そもそも〝見学実習〟となっていることが多いですしね。

ここを理解できないと、「できなかった実習」と感じやすいのです。

 

3.緊張環境が学習を阻害する。

臨地実習では、知識不足への不安、人間関係、報告や対応への緊張などから、学生が心理的・生理的ストレス反応を示すことが報告されています。

手術室のように独特の緊張感がある場では、その影響が学習のしにくさとして表れやすいのかもしれません。

手術室は、医療現場の中でも特に緊張感が高い場所です。

・無菌操作
・重大なリスク管理
・多職種チーム連携

この環境で、学生は常に「邪魔にならないように」「迷惑にならないように」と意識しなければなりません。

特に無菌操作の様な清潔環境の維持が余計そうさせます。

清潔不潔、触れていいor触れてはいけない、立っていい場所orダメな場所

このルールは説明されても実際の現場では緊張もあり、空気で感じなければいけない場合もあります。

失敗できない空間。

緊張が強い空間。

 

強い緊張は、思考力を低下させます。

分かっていたはずの知識も出てこない。
質問したいのに声が出ない。

これは個人の弱さではなく、生理的反応です。

 

これらの心理的負荷が〝難しい〟という感覚を増強させます。

 

4.周術期の“つながり”が見えない。

周手術期看護実習では、術前・術中・術後のつながりを通して患者さんを理解することが学びの重要な要素になります。

逆に言えば、術中だけを切り取って見ても、その行為の意味や患者さんにとっての重みがつかみにくく、学びが浅くなりやすいとも考えられます。

手術室見学実習では、術中だけを観察することが多いです。

しかし、看護は本来、周術期全体で成り立っています。

・術前の不安
・家族の心配
・麻酔導入時の緊張
・術後の疼痛
・合併症予防
・早期離床

などなど

これらがつながって初めて、術中の意味が見えてきます。

術前・術後が見えないと、手術は「技術的な作業」に見えてしまいます。

理解が浅く感じる原因の一つです。

 

5.ヒエラルキーの強い環境。

手術室実習では、学生が学びやすい環境を整えることや、教員と手術室看護師が連携しながら見学の意味づけを支えることが重要とされています。

特に、周術期看護の継続性を学生に理解してもらうためには、単に見学させるだけでなく、学びの焦点を共有する関わりが求められます。

手術室はチーム医療です。

しかしながら、どうしても上下関係は生まれてしまします。

・執刀医

・麻酔科医

・看護師

・その他コメディカル

当然なことではありますが、その中で学生がチームの一員になる事は非常に難しいです。

病棟でも同じようなことが起こり得ますが、手術室ではより顕著に出てくると思います。

 

6.評価基準が曖昧。

病棟では

・患者との関わり、コミュニケーション

・アセスメントなどの記録

・ケアなどの技術

など

評価軸として比較的明確です。

 

手術室実習では、学生が行動で評価されにくいです。

評価されるのは、

・何を見ていたか
・何に気づいたか
・どのように整理できたか
・患者安全をどう理解したか

つまり“思考”です。

しかし、多くの学生は「何を考えれば評価されるのか」を教わっていません。

教員の中でも手術室経験が無い場合も多く、そもそも何を評価すれば良いか判断が難しくなっている場合もあります。

 

そのため、

「頑張ったのに評価が低い」

と感じてしまうのです。

 

7.時間が短い。

手術見学実習は当然ながら時間が短いです。

手術の時間のみになるので、数時間で終了します。

その時間の短さが

理解できないまま終了してしまったという印象を強くしてしまいます。

 

8.患者との関係性が築きにくい。

病棟では患者と会話ができます。

しかし手術室では全身麻酔で眠ってしまいます。

患者と関係性を築く前に終わってしまいます。

ましてやただでさえ手術前に緊張している状況で、ほとんど初対面です。

学生にとっていかに患者と関わるか、が実習の評価に繋がっていたのに、関わることが難しい環境に置かれる。

これが難しく考えさせてしまいます。

 

では、どうすればよいか。

そのため、手術室見学実習では、事前に観察の視点をある程度絞っておくこと、見学後に振り返りの手がかりを持てるようにしておくことが大切だと思います。

実際、記録用紙などを使って観察ポイントを可視化する工夫は、学生が意図的に学ぶ助けになることが示されています。

 

ここまで挙げたのは、すべて手術室の特徴の話です。

学生自身の不出来の問題ではありません。

致し方ない事です。

 

これまでに挙げた難しいと感じる要因が重なります。

 

手術室実習で重要なのは、

“全部理解すること”ではありません。

見る軸を絞ることです。

特に

1.手術期の流れ

2.看護師の役割

3.安全管理のポイント

を見ると良いでしょう。

 

私は次の3つをおすすめします。

 

① 患者は今どんな状態か。

・不安は強そうか
・体位による圧迫はないか
・体温管理はどうしているか
・出血量はどう変化しているか

・モニターはどう変化しているのか

などなど

患者視点を持つだけで、観察が具体的になります。

 

② チームは何を優先しているか。

・安全確認
・無菌操作
・時間管理
・合併症予防

などなど

優先順位が分かると、手術の流れが見えてきます。

 

③ 看護師は何を予測して動いているか。

・次に必要な物品を準備する
・出血増加を想定する
・器械出し看護師外回り看護師の動きの違い、どんな動きをしているのか

などなど

“先読み”を意識して見ると、看護の専門性が見えてきます。

 

難しくしている要素。

手術室実習の難しさには、少なくとも三つの要素があると感じています。

一つ目は、環境そのものが特殊であることです。

二つ目は、場面の進行が速く、考える前に出来事が進んでしまいやすいことです。

三つ目は、学生自身が「評価される場」にいる緊張の中で、自分らしく学びにくくなることです。

 

つまり、知識が足りないから難しいのではなく、知識があっても学びにくい条件がそろっていることが、手術室実習の難しさの一つだと思います。

 

学生が学びやすくなるために必要だと思うこと。

では、手術室実習で学生が少しでも学びやすくなるためには、どのような支援が必要なのでしょうか。

私は、まず「今日は何を見ればよいのか」を具体的に示すことが大切だと思っています。

例えば、

・ 術前訪問から手術室入室までの患者さんの様子を見る

・清潔不潔の区別がどの場面で意識されているかを見る

・手術中の看護師の役割の違いに注目する

・患者さんの安全や安楽に関わる場面を見つける

このように視点を絞るだけでも、学生は「何を見たらよいか」が分かりやすくなります。

また、実習後に短い時間でも振り返りがあると、学生は自分の見たことを整理しやすくなります。

手術中に理解できなかったことも、あとから言葉にしていく中で意味づけできることがあります。

実習中に完璧に理解できなくても、振り返りの中で学びにつながることは少なくありません。

 

手術室実習では「学習の手がかり」を渡すことが大切。

私は、手術室実習では知識を教えること以上に、学習の手がかりを渡すことが大切だと思っています。

学生は、何を見て、どう考えればよいかが分からないと、その場にいるだけで終わってしまいます。

逆に、

この場面では患者さんの表情や体位に注目してみよう」

今のやり取りは安全確認として見てみよう」

といった小さな手がかりがあるだけで、実習の見え方はかなり変わります。

 

手術室実習は、学生にとって負担の大きい実習かもしれません。

だからこそ、「頑張って見て学んで」だけではなく、

学ぶための視点を具体的に渡していく支援が必要なのではないかと感じています。

 

手術室見学実習の難しさは、学生個人の能力だけで説明できるものではなく、実習の構造や環境の影響も大きいように思います。

だからこそ、学生の努力だけでなく、見学の視点や振り返りの支援、実習環境の整え方も大切になるのではないでしょうか。

まとめ。

手術室実習の難しさは、特殊な環境と学びにくさが重なることにあると思います。

手術室実習が難しいのは、覚えることが多いからだけではありません。

病棟とは異なる特殊な環境、短時間で進む場面、見学中心になりやすい学習形態、そして学生自身の緊張感が重なり、学びたくても学びにくい状況になりやすいことが大きいと思います

そのため、学生に「もっと勉強してきて」と求めるだけでは十分ではありません。

何に注目すればよいのか、どのように考えればよいのかという学習の手がかりを渡し、短くても振り返りの機会を作ることが、実習を学びにつなげる支援になるのではないでしょうか。

手術室実習の難しさを知識不足だけで捉えず、環境や学習のしにくさも含めて考えることが、学生理解と実習支援の第一歩になると私は考えています。

 

無料PDF:手術室見学実習の難しさ

記事では、手術室見学実習が難しい理由を整理しました。

「では実際に、見学前に何を意識すればよいのか」「見学中にどこを見るとよいのか」をもう少し手元で確認したい方は、無料PDFもあわせてご活用ください。

こちらからダウンロード

手術室見学実習の難しさチェックリスト

 

合わせて読みたい記事

手術室見学実習が難しく感じるのは、あなたの能力不足ではなく、環境そのものが複雑だからです。

そのうえで、実際の見学で何を見ればよいのかを知っておくと、学びはかなり整理しやすくなります。

次は、手術室見学で何を見るのかを具体的にまとめた記事もあわせてご覧ください。

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参考にした資料。

  • 文部科学省『看護学教育モデル・コア・カリキュラム』
  • 水谷郷美ほか「看護学士課程教育の手術室実習において学生を指導する手術室看護師に対する期待」
  • 荒木久美子ほか「看護学生が手術室見学実習を意図的に臨むための教育的試み」
  • 橋本茂子ほか「周手術期看護実習の体験を通して学生が振り返った学びの検討」
  • 「看護学生が臨地実習中に示す心理的・生理的ストレス反応とその要因分析」